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ダイバーシティと時短制度の「真」視点

日本企業のグローバル化が進む中、人事労務の課題として「ダイバーシティ=人材の多様化」と「短時間勤務=残業の削減」が叫ばれて久しい。しかしながら、欧米諸国はもちろん、他のアジア諸国の企業と比べても順調に進んでいるとは言いがたいのが実情。この問題の根っこにあるものは何か。何を突破口にして解決していけばよいのか。今回は、人事労務管理をはじめ、日本の雇用制度、管理職育成に詳しい法政大学大学院・藤村教授をゲストに迎え、お話を伺った。

藤村 博之氏 (ふじむら・ひろゆき)
法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授

1956年生まれ。大学院時代、旧ユーゴスラビアのザグレブ大学経済研究所に留学。その後、京都大学経済研究所の助手として東南アジア調査に参加。欧米諸国で企業調査を実施。現在の研究テーマは日本企業における管理職育成、高齢者雇用の実態と課題、労働組合の役割の再構築など。また、法政大学大学院職業能力開発研究所を設立し、学生や社会人の職業能力開発の研究を行っている。

なぜ、ダイバーシティが必要なのか?

多田

いま、企業はダイバーシティを推進する部署を設けたり、研修も盛んに行ったりしていますが、ダイバーシティ・マネジメントはなかなか定着しないように感じます。そのあたり、何が原因で、どう解決していけばよいのでしょう。

藤村

まず、カタカナが多いですよね。ダイバーシティ、ワークライフバランス、コンピテンシー・・・どれも定着しない。ダイバーシティは多様性と訳されますが、それが「企業の競争力にどう役立つのか」が説明できていないんです。

多田

なるほど。きちんとした定義がない。みんなの肚に落ちていないから定着しない、と。

藤村

そう。「多様性」ということで言うと、今は顧客が多様化している時代なんですね。高齢者や働く女性、欧米やアジアからの外国人も増えている。そうした多種多様な人々に対して、自社の商品・サービスがどう受け止められ、何が求められているのか。それが理解できなければ適切な対応はできませんよね。例えば「高齢になればこんな問題が発生するからこんなサービスがあると良いよね」といった発想。そういう発想が自然にできるのは同じ境遇であるような人なのだから、企業にも多種多様な価値観を持つ人材が必要なんです。

多田

そういえば、今は大学でも地方枠を設定していますね。近隣だけでなく、多様な地域から学生を集めようという狙いで。価値観の違う人が集まってこそ生まれるものがあるという考え方ですね。企業で言えば、例えば男性だけが商品企画するのではなく、女性目線も組み込むことで今までにない商品開発ができるようになる・・。当然ですが、それこそ最終的に企業が求めるところですよね。

日本企業には、ダイバーシティは面倒くさい

藤村

日本では古くから、似たような人材を集めて「右向け右」というやり方が続いてきた。それがラクだったからですね。それに対して、いろんな人がいるような組織では「なぜ右を向くのか?」から説明しなくちゃいけないでしょう。だから日本企業にとってダイバーシティは面倒くさいんです。

多田

そうですね。暗黙の了解では済まされない。きちんと言葉で説明する必要がある。例えば「なぜ女性にもっと活躍して欲しいのか?」についても、伝える時に、女性たちが強いミッションを感じるように説明しないといけないわけですよね。

藤村

ええ。それと、人間って会社だけでなく、家庭や地域社会でいろんな顔を持って生きていますよね。会社の中だけでなく、そうした外のいろんな世界を知っている方が実は仕事に役立つんですね。議論をする際にも物事を多面的に見ることができますから。

多田

一般に、日本企業の会議では、あまり意見が活発に出ないですね。

藤村

それは従来の管理の仕方に問題があるんです。管理職は「予算達成」というミッションがあるから手っ取り早く目標に到達したい。となると、部下に対して「ごちゃごちゃ言わずにやれ」となりがち。そうじゃなくて、みんなで議論することが必要なんですね。お互いの意見は認め合いつつ、共通のゴールを設定して走り出せる環境を管理職がつくるべきです。

多田

なるほど。そうなればメンバーは上司にいちいちお伺いを立てなくても、一人ひとりが判断して目的に向かって進むようになる、と。でも、そのためには企業文化から変えていかないといけない・・?

藤村

そこまで大げさじゃなくて良いんです。「みんな、わからないことはわからないと言おうよ」「わからないので説明してくださいと遠慮せずに言おうよ」という、とてもシンプルなことだと思う。とにかく説明することの大事さを、みんなが認識することですね。

時短の扉をあけるカギ

多田

もう一つ「時短」というテーマがあります。「長く働くのをやめよう」とずっと言われ続けて、これもあまり変わってないですね。

藤村

業務というものは、本来、重要性と優先度から「やるべき業務」と「やらなくていい業務」を分けることが重要なんです。私は今まで1000人以上の管理職研修を行ってきましたが、研修の始めに「管理職の役割は何だと思いますか?」と問いかける。すると必ず出てくるのが「課題達成」「部下の育成」「他部署との調整」の3つです。今まで「やめる業務を決めること」という答えは一つもなかった。でも、やめる業務を管理職が決めないから、仕事がどんどん山積みになって残業が増えるんですよね。

多田

最近、記事で読んだのですが、ある企業が残業禁止ルールを導入した、と。ところがなかなか業務改善につながらない。よって、業務が終わらないことに労使双方が不満を持つようになってしまった。思うに、労働時間の短縮だけに囚われるのも問題ですね。目的意識なしに「早く帰ること」だけを規則化すれば、結局、業務に支障が出ますよね。

藤村

そうです。それに「やる・やらない」を決めるといってもオール・オア・ナッシングじゃない。例えば、会議のための資料作りで「報告書を10枚にまとめなさい」と具体的に指示すればいいのに、漠然と「報告書を作って」というから、部下はあれもこれもと迷って100枚作ってしまう。90枚分が時間の無駄ですよね。昔のように社員が沢山いた時代は良かったのかもしれませんが、省人化・効率化を求める現代には通用しませんね。

“時短管理職”が日本を変える?

多田

人口動態予測を見ると、50年先には日本の働く人口は半分になるといわれています。従来の考え方のままでは社員は減って残業ばかり増える。時短は掛け声倒れになりますね。適材適所の人材配置で、やるべき業務に焦点を当てて、いかに効率的に進めるのか? そんな組織戦略は、企業の生き残りをかけて考えるべき課題だと思いますね。

藤村

仮に、午後4時に帰る“時短管理職”が生まれると、日本も変わるかも知れませんね。だって管理職でなければ判断できないような案件が午後4時以降にどれくらい発生するか? その確率を考えたら、そんな職場はそう多くないはずです。もちろん、業種によって差はあるでしょうが。

多田

そういったことは企業も気づいていながら、現実問題も絡んでなかなか実行に移せないですね。突破口としては「短時間勤務」や一度離職しても戻れる「カムバック社員」など、仕事と生活を両立できる環境整備の制度をどんどん入れていくしか道はないような気がしています。

藤村

そうですね。制度で人は変わらないけど、社内の空気を変えることはできますね。長いキャリアでの活躍曲線をイメージすると、ずっと1.0の力で働けるとは限らないわけです。若い時は1.2出せても、病気になって0.8に下がったり、育児で0.6になったり、また戻れば1.0になるという具合に・・。ですから、長く働ける組織づくりにはそうしたリズム変動を折り込んで吸収できるような「融通」や「柔軟性」が不可欠です。

多田

そうですね。短時間勤務でもうまく時間管理すれば活躍できる、会社に貢献できる、という環境が整っていれば、「じゃあ自分もやってみよう」と人材活性化につながって、新しいキャリア発想も生まれてくるのではないかと思います。
藤村先生。きょうはお忙しい中、本当にありがとうございました。

Tomoko’s Eye [対談後記]

ダイバーシティと時短勤務の考え方を、いかに企業に根付かせていくか。
実は多田国際も悩んだテーマだが、今回の対談で、藤村教授から幾つもの価値ある視点を頂いた。
まずは企業がアクションを起こさなければ始まらない。人事は失敗を恐れずに柔軟に考えてほしい。
既成概念を変え、短い時間で働いてもらい、成果を出させる仕組みづくりに力を入れる。
また、ライフステージに合わせてフレックスタイムや在宅勤務などの制度を選べるようにする。
働き方をもう少し緩やかに考え、日々腹筋するのと同じ考え方でずっと続けるようにする。

そう捉えて意識していくことで、結果としてうまく行くのではないかと考えた。
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